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大学生における読書をテーマにしたオンライン・フォーラムを開催〜「本を読まない大学生と学習支援としての読書」〜

2021.11.12

2021年8月6日(金)に、「本を読まない大学生と学習支援としての読書」というテーマで「ネオシリウス・ユーザー・フォーラム 2021 #3」を開催いたしました。

今回のテーマ「本を読まない大学生と学習支援としての読書」について

 近年、「大学生の読書離れ」が懸念されるようになりました。全国大学学生生活共同組合連合会様が毎年実施されている学生生活実態調査においても、大学生の約半数が、月に1冊も読んでいないということが明らかになっています。
 一方で、本の活用が大学生の学習にとって有用であることは広く知られていますので、改めて大学生に本を手にとってもらい、学習や将来のキャリア形成に役立てほしい。また、それを支援するための方法について何かヒントになればと考え、今回のフォーラムのテーマとして「本を読まない大学生と学習支援としての読書」を設定させていただきました。

■第56回学生生活実態調査(全国大学学生生活共同組合連合会様)

https://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html

■事例紹介1

 京都産業大学文化学部 国際文化学科 教授 大平 睦美 様より「京都産業大学文化学部むすびわざブックマラソン」との演題でご発表いただきました。

「京都産業大学文化学部むすびわざブックマラソン」 京都産業大学文化学部 国際文化学科 教授 大平 睦美 様
「京都産業大学文化学部むすびわざブックマラソン」 京都産業大学文化学部 国際文化学科 教授 大平 睦美 様

❏京都産業大学について

 京都産業大学は、1965年、天文学者である学祖荒木俊馬が京都・神山の地で開学し、現在はワンキャンパスにて10学部・9研究科を擁する一拠点総合大学です。
 また、「産業」と書いて『むすびわざ』と読み、何かと何かを「むすんで、うみだす。」拠点として、「むすぶ人」を育て続けている大学だそうです。
 大平様が属する文化学部は、大学生がどうしたらもっと本を読んでくれるのか、本を使ってどんな学びができるのか、といった課題についても取り組まれており、5年前から『むすびわざブックマラソン』という形で、課題解決に向けた活動をされておられます。

 

□むすびわざブックマラソンについて

 読書は学修における基本中の基本と位置づけ、文化学部生全員(約500人)が参加しています。むすびわざブックマラソンとは、マラソンのバトンのように、次から次へと本を読むことをイメージして名付けられました。年間25冊、4年間で100冊読了し、あらすじや感想を記録したブックシート(※1)を在学中に100枚提出することを目標とした活動とのこと。
 ブックシートに記録する本は、漫画以外は何でも良いということになっていますが、文化学部として、学びの柱と考えている「文学関連」「歴史関連」「思想関連」「京都関連」の資料を推薦本として紹介しています。学生は自分の所属コースが決まったら、その分野の資料も追加して記録します。
 単に本を読んで知識を得るだけでなく、ブックシートにまとまった読後記録を残すことで文章力をつけ、卒論に備えてもらう、という目的も学校側にはあるのだとか。
 ブックシートを書きまとめると『本(読書)のポートフォリオ』となります。自分が4年間でどれだけの本をどういう風に読んだか「学生時代の学びの記録」が残り、卒業論文の執筆、就職活動時の自己分析などに役立っているそうです。

 

(※1)ブックシートは専用のエクセルシートで用意され、大学でLMSとして使用しているMoodleで登録する仕組みとなっています。
 記述する内容は「書籍の基本情報」と「あらすじ」、「おすすめポイント/キーワード」の3点です。
 「あらすじ」は200字以下に収めるのが条件で、要約する力が養われると考えられています。「おすすめポイント/キーワード」は、各本について3点挙げ、その理由について詳細を記述します。ブックシートを見た人が読みたいと思わせるような内容で、150文字以上書くというのが条件です。
 毎年25冊以上書いたら自己申告し、教員により内容が承認されたら学部長より表彰されます。年間50枚以上ブックシートを出す強者もいるそうですが、年間の表彰者は4〜5人程度で、より表彰者を増やしたいというのが目下の課題とのこと。教員と参加学生でいろいろと知恵を絞っているそうです。

□むすびわざブックマラソンの関連企画について

 文化学部では、ブックマラソンへの参加と、そもそも本を沢山読んでもらうための施策として文化学部図書室を開設し、教員の推薦本や過去のゼミ論集などをいつでも読めるようにしています。
 しかしそれだけではなかなか学生の読書量が増えないため、教員と有志学生でフォーラムなど企画運営をされているとのことです。企画の一部をご紹介すると、京都魔界地図、54文字物語、ブックマラソン攻略ガイド、読みトーク(読書会)、オープンキャンパスでの取り組み紹介などがあります。何やら面白そうなタイトルの企画も多く、実際の成果も上がっているそうです。

□むすびわざブックマラソンの今後の展開

 2020年からは、新型コロナウイルスによりキャンパス内での活動が困難になりました。皆で工夫してオンラインでの活動を増やしているものの、どうしても新規参入者の獲得に苦労しているそうです。
 また、フォーラムなどの活動の参加とブックマラソンのブックシートの提出が連動しておらず、活動に興味を持って参加している学生の中でも、読書量は多いもののブックシートを提出できていない学生が多いとのことです。
 現在、システム上の制約から、学生が書いたブックシートは他の学生に公開されません。そのため、ブックシートをきっかけにした学生同士の交流ができない、ということも、ブックシートの提出数が伸びない理由の一つではないか、と考えており、今後は提出したブックシートの情報が学生同士で相互閲覧し交流のできる仕組み(※2)に変えていきたい、とのお考えを伺いました。

(※2)NJCで現在企画開発中の『文献レビューサービスBOOK MARRY(ブックマリー)』での運用を検討いただいております。今秋からテスト的に導入し検証を行っていただく予定です。

□最後に

 「ブックマラソンを掲げていながら矛盾しているかもしれない」とのことですが、「ただ沢山読めば良いのか」「100枚ブックシートを書けば良いのか」という点について大平様自身もよく考えているそうです。
 大平様の講義の中では「精読というのはどういうことなのか」であったり、「本の好き嫌いに関係なく学習においては文献をあたって必要な情報を得ることが必要」ということなどを、常に学生に訴えられているとのことでした。
 「『読書=1冊の本を読了する』という既成概念に囚われている学生が多いが、本の上手な使い方はそれだけではない」というお話もあり、本セミナーのテーマ「本を読まない大学生と学習支援としての読書」にぴったりの示唆に富んだご発表をいただきました。

■事例紹介2

 多摩大学 事務局部長 兼 ALC事務課長(図書館) 池田 剛透 様より「初年次教育としての書評コンクール」との演題でご発表いただきました。

「初年次教育としての書評コンクール」多摩大学 事務局部長 兼 ALC事務課長(図書館)池田 剛透 様
「初年次教育としての書評コンクール」多摩大学 事務局部長 兼 ALC事務課長(図書館)池田 剛透 様

□多摩大学概要およびアクティブ・ラーニングセンター(以下ALC)について

 多摩大学は平成元年に「国際性」、「学際性」、「実際性」の3つを基本理念として開学。国際化、情報化社会の進展に即応して、世界の中で大きな役割を担い、日本の将来を背負うという自覚に基づいた強い実行力と広い視野を持ち自らを厳しく律することができる高い倫理観のある人材の育成をめざし、開学当初よりアクティブ・ラーニングの実施に力を入れ続けてこられました。
 多摩大学の実学教育とは、問題解決学であり、ゼミで培ったさまざまなアクティブ・ラーニングの教育手法を講義でも展開し、学生の学びを支援してきました。この支援を加速するために、2016年度より新たにALCが開設されたそうです。
 ALCでは、各学部のAL委員会を中心に、図書館サービス、学修支援サービス(学修、資格取得、就職活動支援)、メディアサービス(IT支援)を行っており、学生はそれぞれのサービスを自由に利用できるとのことです。

□書評コンクールについて

 多摩大学経営情報学部の学びの特徴は、4年間に渡るゼミと、アクティブ・ラーニングにあります。1年生のプレゼミにおいては、2年生から本格的に展開される専門的な学びを、より効果的、より効率的に進められるように「大学での学びの技法」を幅広く学習するそうです。書評コンクールはその取り組みの一つとなります。
 書評コンクールは、図書教育および図書館利用の促進を目的として、初めは「読書感想文コンクール」という名称で、図書館主催の全学年公募という企画からスタートしました。
 その後、上級生については公募型の書評コンクールという形に変更されました。学生によると「読書感想文」より「書評」の方が、「レポートや卒業論文を書く上で様々な文献の内容を要約する訓練になりそう」という印象を与えられるようで、参加への動機づけがしやすかったとのこと。また、「読書感想文」だと娯楽的な書籍も対象に含まれがちです「書評」だと学術書に限定でき、教員も評価がしやすいというメリットもあったそうです。
 1年生については、AL委員会においてプレゼミのプログラムに取り入れたらどうかと提案し、まだ「読書感想文コンクール」の頃、2017年に必須プログラムとして実施されました。学生は入学直後の4月、プレゼミにてレクチャーを受け、5月末までに作成して投稿します。その後AL委員による評価が行われ、7月中旬に選考結果の発表と受賞者に対する表彰式を行うというスケジュールで進んでいきます。

□書評コンクールの選考方法について

 選考方法ですが、まず各クラスの教員が優秀者1名を選定します。AL委員会の教員10名が各クラスの優秀者の中から選考を行い、最優秀賞1名、優秀賞2名、入賞21名を決定します。評価は以下の3点について行われるとのことです。

 1.要約はきちんと内容が伝わるようにまとめられているか。
 2.その本の魅力が伝わるような評価をしているか。
 3.「てにをは」や「主語述語の繋がり」など、日本語として適切な文章になっているか。

□ユーザーの願いをシステムベンダーにつなぐ

 書評コンクールを登録するシステムとして、2019年からは図書館で使用しているOPACシステム(※3)に搭載されているレビューの機能を使っています。OPACを使うことにより図書館システムそのものの利用向上にも繋がったため、OPACのレビュー機能を利用して良かったという評価をしているそうです。
 ただ、書評コンクールに使って初めてレビュー機能についての不足機能や改善点などが現場から多く挙がったそうで、これらは「多摩大学様からのレビュー機能への要望」(※4)として弊社にて受領しております。

(※3)多摩大学様は図書館システムとして、弊社の「ネオシリウス・クラウド」をご利用いただいております。
・ネオシリウス・クラウド
https://www.njc.co.jp/neocilius/product/

(※4)以下のようなご要望をいただきました。貴重な意見として今後の機能改善に役立てていきたいと考えております。
・登録文字数を増やして欲しい
・一度登録したレビューの修正ができるようにしてほしい
・レビュー一覧から「利用者ID」を抽出したい
・レビュー一覧でレビューの全文を抽出したい
・「いいね」機能が欲しい(学生同士で評価させたい)
・OPACでレビューがある図書のみを検索したい

□最後に

 「書評コンクールの企画・運営に際しては、図書館員が積極的に教員に協力し、授業にも参加した。更にはプログラムの提案まで行うことができた。そして、そこまでやったからこそシステムの改善点などに気付き、ベンダーにも要望事項を伝えることができた。図書館員は、学びの最前線から、後方支援であるシステムベンダーまでの橋渡し役として重要な役割がある」と、池田様は今回の書評コンクールで改めて感じたそうです。
 弊社も池田様の発表を聞き、改めて弊社から提供している図書館システムの先には図書館を経由して学生、教員、授業といった学習現場がつながっていることを実感いたしました。

■調査報告

 「大学生の読書記録・読書レビューに関する調査報告」について弊社事業戦略本部 阿加井 愛香より発表いたしました。

「大学生の読書記録・読書レビューに関する調査報告」 弊社事業戦略本部 阿加井 愛香
「大学生の読書記録・読書レビューに関する調査報告」 弊社事業戦略本部 阿加井 愛香

□調査の目的

 本調査は、大学生の読書意識と、それに対する大学図書館の意識をインタビューを通して明らかにすることを目的としたもので、2019 〜 2020年に複数の大学の協力の下、デザイン思考の手法を用いて実施しております。今回はその報告と、調査を踏まえて生まれた新サービスについてお話させていただきました。

□調査方法

 3種類の調査を実施。合計で118名の学生・図書館関係者から回答を得ました。
 1.図書館総合展(2019年)NJCブース来場者(大学生29名、図書館関係者61名、他4名)/アンケート実施
 2.読書記録アプリ(プロトタイプ)の長期モニターに参加した大学生11名(3大学)/利用状況のモニタリング、インタビュー(モニター前後)実施
 3.大学図書館スタッフ 13名(3大学、主にレファレンス・閲覧業務担当)/インタビュー実施

□調査結果

 調査の結果、以下の3点のことが分かりました。まず1点目は、 多くの大学生が「読書は有益」と認識しているが、ハードルがあって十分に読書に取り組めていないということ。次に、学生は発信やアウトプットが得意で、レビューを積極的に書く学生と、書かないけれど、他人のレビューは積極的に利用する学生の2種類いること。最後に、図書館はその本質的な目標のひとつとして、「図書館のサービスを使って利用者を支援し、利用者達の学習や研究を促進・充実させる」という意識を持っているということ。

□NJCの考察とサービス開発

 調査結果を踏まえ、弊社では学生同士、また学生と大学図書館の間で本を取り巻くサービスに関する需要と供給が存在しているけれど、「リソースやスキル不足」「適当な場所がない」などの問題でサービス提供が上手くできていないということが、大きな課題であろう、と考えました。
 そこで新しく企画したのが
「大学生のための読書レビューアプリ『BOOK MARRY(ブックマリー)』」です。
キャッチコピーは「レポートのための参考文献でお悩みのあなたと、人生どこに向かえばよいかお悩みのあなたへ。」
 誰でも書けるインターネット上のECサイトや読書感想サイトではなく、あくまで同一コミュニティでの上質な読書や文献に対する記録・レビューを蓄積し、学生同士で学習支援を実現するサービスを目指しています。

 今秋より大学と、公共図書館のご協力の下、製品化に向けた実地検証を行う予定です。

 NJCからは以上の調査報告、および新サービスのご案内をさせていただきました。

■各発表テーマに分かれてのネットワーキング

 講演後は、各発表者が各ルームに分かれて待機。参加者の皆様が自由に各ルームに参加し、発表者への質疑応答をしていただきました。発表者、ルーム参加者共に「もっと意見交換したかった。時間が足りず残念だった。」とご意見を頂くほど各ルーム内で活発に意見が飛び交っていたようです。

 今回のフォーラムを通じて、大学生における読書が重要であることはもちろん、読書の概念なども多様であって良いのだと改めて考えさせられました。今後、多様化する社会の中でも変わらぬ価値が続くであろう「読書」という行為について、より良い環境がご提供できるよう、私どもも鋭意努力していきたいとの思いを新たにしました。

■概要 

名称:ネオシリウス・ユーザー・フォーラム 2021 #3
日時:2021年8月6日(金) 13:30~16:15
開催方式:Zoom によるWebセミナーおよびネットワーキング

第1部 13:30〜15:10 テーマ「本を読まない大学生と学習支援としての読書」

 ・事例紹介1
 「京都産業大学文化学部むすびわざブックマラソン」
  京都産業大学文化学部 国際文化学科 教授 大平 睦美 様

 ・事例紹介2
 「初年次教育としての書評コンクール」
  多摩大学 事務局部長 兼 ALC事務課長(図書館)池田 剛透 様

 ・調査報告
 「大学生の読書記録・読書レビューに関する調査報告」
  日本事務器株式会社 事業戦略本部 阿加井 愛香

 ・ネットワーキング
  (講演毎に用意したルームに参加し、講演者との質疑応答)

第2部 15:25〜16:15 NJCからご案内
・ネオシリウスのバージョンアップ予定のご案内
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