十文字学園女子大学の文芸文化学科・石川敬史研究室と毎年実施している産学連携プロジェクト。6年目の2020年度はコロナ禍で実施自体も危ぶまれる状況でしたが、この状況だからこそできることをやろう!ということで、1日限りの「JNチャンネル オンライン図書館(以下「オンライン図書館」) ※1」を開館いたしました。
※1 「JN」は十文字学園女子大学と日本事務器株式会社(NJC)の頭文字を取りました。
■企画・実施の経緯
これまで石川敬史研究室との産学連携は、オリジナルブックトラックやオリジナル読書手帳といった形のあるものから、読書推進アプリ、聴覚障害者向けの手話付きOPACガイダンス動画などのソフト/コンテンツ的なものも含め、何かしら「ものづくり」を行うことを基本に企画してきました。
ただ2020年度はコロナ禍によりリアルに集合してものづくりを行うことが困難だったため、企画の決定は難航し、当初は2020年度の企画を見合わせる案も検討しましたが、石川先生より、「今、この未曾有の状況だからこその企画を考えよう」「図書館は考える材料を提供する社会システムなのだから、その意義はオンラインであっても変わらないはず」というご発案を頂戴し、オンラインを前提にした企画を考えることになりました。
実際に「オンライン図書館」として企画が決まっていく過程では、福岡県久留米市や兵庫県尼崎市が実施していた「オンライン公民館※2」イベントの存在を知ったことが大きかったです。昨今、図書館と公民館は「MLAK ※3」のグループに位置づけられるように、地域やコミュニティの文化発信施設として重要な役割を担っており、前述の公民館での先行事例は「オンライン図書館」というどちらかといえばイメージの湧きにくい企画にとって、とても参考になりました。
※2 福岡県久留米市「くるめオンライン公民館」
https://onlinekominkan.wixsite.com/kurume
兵庫県尼崎市「尼崎オンライン公民館」
https://ama-tabi.com/events/onlinekouminkan.html
※3 MLAK:美術館・図書館・文書館・公民館 M=Museum、L=Library、A=Archives、K=Kominkanの頭文字をとってMLAKと呼ばれる。
オンライン図書館と一言で言ってもできることは多岐にわたります。NJCの提供している図書館システム「ネオシリウス」では、大学図書館向けだけでなく『ネオシリウス・ラボ』や『ネオシリウス・ビジネス』といった、一般企業研究機関が運営する専門的文献サービスを行っているいわゆる「専門図書館」向けの図書館システムも展開しております。そこで本企画では「専門図書館ならではの業務やサービスはなにか?」という問いを設定し、「オンライン図書館」の本番で、NJCの専門図書館向けプロダクト開発のヒントになるよう、各学生の興味のある分野の専門図書館についての調査結果を発表してほしいとお願いしました。
そしてその他にも番組編成、フライヤーづくり、特別ゲストの招待など、短い期間ながら準備を進め、「オンライン図書館」当日を迎えました。
■NJC、ゼミ生向け『オンライン図書館』開館!
「オンライン図書館」開館当日。コロナ禍の影響で春先からZoomを使った授業を受講してきているため、ある程度オンライン慣れしている学生さん達も、学校関係者以外が加わった形で発表する機会は初めてに近かったようで、学生さん達は非常に緊張した面持ちで番組の準備を行っておりました。しかし始まってしまえば先ほどまでの緊張が嘘のように堂々と明るく楽しげに4時間を超える大作番組はスタートしていきました。
番組の進行は基本的に学生さんによるフィールドレポーターが行いました。
今回の「オンライン図書館」は大きく分けて3つのパートから構成されています。
1)専門図書館について学生さんがリレートークとして発表
2)NJC社員による読書推進に関するプレゼンテーションおよびライトニングトーク
3)特別ゲストも交え、石川先生、学生でのディスカッション
1)専門図書館について学生さんがリレートークとして発表
「学生リレートーク~あなたの知らない専門図書館の世界について〜」というプログラムで、NJCの設定した問いに対し、学生さん1人1人が自分自身の興味のある分野に関する専門図書館を調査した結果を発表してもらいました。
調査は、コロナ禍の最中に行われたため、発表対象の図書館も休館していたり、入館制限されていたりと調査するには難しい状況ではありましたが、私設図書館、企業図書館、博物館等の資料室など多岐に渡る図書館に関する興味深い調査結果を発表してもらいました。
専門図書館の魅力を伝えるためのコレクションや空間、また図書館の活動、歴史、特色や情報システムの利用状況であったり、中には私設図書館の収益を調べ経営状態の考察などの調査もあり、「一般にはあまり知られていない専門図書館についての理解が深まった」と社員からも感心の声があがる、とてもすばらしい内容でした。
2)NJC社員による読書推進に関するプレゼンテーションおよびライトニングトーク
NJCからは読書推進という観点から『情報発信はコミュニケーションだ!令和時代の情報発信』と『コロナ禍のライブラリー・サポーター活動事例』というテーマで、プレゼンテーションを行いました。
前者はSNS等を利用して積極的に有益なサービス情報やコンテンツ情報を発信している図書館の事例紹介が主な内容で、コロナ禍で対面でのサービス提供が行えなくなっている状況下での各図書館の工夫を学べる内容でした。後者は同じくコロナ禍に関連し、様々な大学のライブラリーサポーターの学生さんたちの活動を紹介する内容です。十文字学園女子大学もライブラリーサポーターの活動が盛んな大学ですので、ずいぶん興味を持って聞いていただけたようです。
また、NJCからこれから4年生になる学生さんの少しでも参考になればということで、『大学時代に読んだ本』と『NJC社員の卒論』についてのライトニングトークを行いました。どちらかといえば社員側で「えっあの人、大学時代そんな研究してたの!」ということで大変盛り上がったことをご報告いたします。
3)特別ゲストも交え、石川先生、学生でのディスカッション
スペシャルゲストとして、青山学院大学教授 図書館長・アカデミックライティングセンター長 野末俊比古先生をお招きし『緊急特別生放送!どうする、どうなる?これからの図書館』というテーマで、石川先生に学生さんも交えたディスカッションを行いました。
コンテンツの電子化が進む中、図書館の役割や利用者の図書館の使い方がどのように変化していくのか、未来の世の中ではそもそも図書館が存続しているのか等の議題で大いに盛り上がりました。
資料の媒体が紙から電子に変わっても、授業が対面からオンラインに変わっても、学習や研究において文献利用の重要性は変わらず、逆にその変化の過程である過渡期の混乱の中においてこそ、図書館の存在意義が発揮できるのでは、議論を聞いていて感じました。
今回の『オンライン図書館』チャンネルは、これまで行ってきた産学連携特別企画の中で最も社会情勢が反映されたものになりました。昨今、図書館による電子図書館サービスなども普及しつつありますが、コロナ禍では単純な電子コンテンツの提供以外にも物理的な『館』を超えて何ができるのかを考える契機になったと思います。図書館は物理的な「館」があって、また利用者は図書館に「赴く」ことになりますので、自ずとその関係として図書館サービスが受動的になることが多いように感じておりましたが、工夫を凝らせば図書館からの発信イベントも様々考えられると思い直す機会となりました。
最後に、NJCにとってはオンライン開催になったことにより、プレゼンテーションやライトニングトークなどで今までの企画以上に多数の社員が参加することになりました。また学生さんの努力や取り組みを多くの社員が視聴することができ、とても刺激を受けたとの感想が寄せられ、結果的にとても良いチャレンジになったと思います。
NJCの図書館・文教事業での産学連携企画は今後も継続いたします。これからもどうぞよろしくお願いします。
※本事例中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞および製品名等は、閲覧時に変更されている可能性があることをご了承ください。
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